1. MOQとは本当は何か
MOQ(Minimum Order Quantity・最低発注)とは、受けられる最小の注文のことです。点数で示す場合も金額で示す場合もありますが、文房具なら「初回発注4万円以上・入数6点」のように、注文全体の金額と商品ごとの入数を組み合わせて示すのが実務的です。
見落とされがちなのはここです。MOQは交渉術でも、小さな店を選別する道具でもありません。損益分岐線です。どんな注文にも、注文が小さくなっても縮まない固定コストがあります。在庫のピッキングと検品、請求書の作成、コマーシャルインボイスと税関書類、太平洋を渡っても壊れない梱包、郵便局までの移動、そしてその後のメール対応。箱の中身がノート12冊でも200冊でも、この作業量はほとんど変わりません。
つまり卸注文のコストは2層です。1点あたりの層(材料・手間・梱包・決済手数料)と、1件あたりの層(書類・梱包・送料・自分の時間)。MOQとは、1点あたりの利益の積み上げが1件あたりの固定コストをようやく回収し、その日を費やす価値が残る点のことです。
2. 国境を越えた瞬間、MOQは必須になる
国内の卸は寛容です。東京のお店への小さな注文なら、宅急便の伝票1枚と20分で終わります。同じ注文をポートランドに送るなら、コマーシャルインボイス、HSコードの判断、税関告知書、7年保存が必要な輸出の証憑、輸出に耐える外装、そして重量帯で階段状に上がる国際送料が必要です。箱が日本を出た瞬間、固定コストの層は3〜5倍になります。
特に厳しいのが送料です。国際輸送は小さくしてもスケールしません。2kgの荷物は10kgの5分の1では送れず、半額程度かかることも珍しくありません。つまり少額の海外注文は、売上あたりの間接コストが最大になる、いちばん割の悪い形の注文です。しかも国内の店と違い、海外のバイヤーは「来週ちょっと足す」ことができません。もう一度、満額の送料がかかるからです。
もうひとつ、長い目で見るとこちらのほうが重要な理由があります。8,000円しか発注しない海外の取扱店は、あなたに賭けていません。珍しいものを買っただけです。6点を棚に置き、3点売れて、二度と再発注しない。あなたは書類仕事に丸一日を使い、その店には誰も推す理由のない商品が置かれるだけです。意味のある初回発注は、バイヤーに決断を迫ります。棚の面積を本気で割く価値があると信じてもらう必要がある。海外であなたの作品を売るのは、注文そのものではなく、その棚の面積です。
3つ目は為替と関税です。見積もりの日と入金の日のあいだで円は動きます。関税・通関手数料・立替手数料は誰かが負担します。大きな注文なら誤差ですが、小さな注文では3,000円の通関手数料が利益をまるごと消します。
3. 数字の出し方
この順番で計算します。手計算ではなく、Wholesale StudioのMOQ計算ツールを使ってください。まさにこの計算式でできています。
まず卸単価。標準的な掛率は希望小売価格の50%なので、1,200円のノートなら卸600円です。そこから、海外の店から入金を受けるときに実際に取られる決済・為替の手数料(銀行・プラットフォーム・為替スプレッドで通常3〜5%)を引きます。600円は約576円になります。
次に1点あたりの実コストを引きます。材料費、現実的な時給で計算した自分の手間、帯やOPP袋を含む小売用パッケージ。仮に410円とします。残った約166円が、1点あたりの貢献利益です。1件あたりの固定コストを払えるお金は、これだけです。
続いて1件あたりのコストを正直に足します。ピッキング・検品・梱包・書類で、たとえば3時間分の自分の時間。輸出用の外装と緩衝材。アメリカまでの送料。小規模な作り手なら、小さめのカートン1箱でおよそ15,000円前後、それ以上になることも多いはずです。
割り算します。15,000円 ÷ 166円 ≒ 91点。これが損益分岐点です。91点でようやくタダ働きが終わります。やる価値のある注文にするには目標利益を上乗せします。1件で15,000円の利益を残したいなら約181点、卸金額でおよそ108,000円。この数字に驚くはずです。そして多くの作り手が最初の2年、卸で静かに損をしている理由でもあります。
この数字をそのまま受け入れる必要はありません。希望小売価格を上げる、パッケージ費を下げる、複数の取扱店をまとめて同じ発送日に処理する、送料をバイヤー負担にする——下げる手はあります。やってはいけないのは、固定コストが存在しないふりをすることだけです。
4. 最低額は2種類ある
機能する卸条件には必ず2つの数字があります。初回発注の最低額と、それより低い再発注の最低額です。初回が高いのは、口座開設・条件のすり合わせ・バーコード・写真・陳列の相談など、一度しか発生しない立ち上げ作業を含むからです。
日本の文房具を扱う海外の個人経営店なら、初回3〜5万円は普通で、バイヤーにとって何ら驚く数字ではありません。再発注は2万円程度まで下げて構いません。8万円を超えると相手が中堅以上の店に限られ、2万円を切ると自分の労働で相手の棚を補助することになります。
両方の数字を、ラインシート、取引条件書、そして全ページのフッターに書いてください。バイヤーは読みながら頭の中で注文を組み立てます。最低額が見えなければ推測し、たいてい低く見積もり、最初のメールが気まずいものになります。
5. 入数(ケースパック)というもう半分
最低発注額は注文の「大きさ」を決めます。入数は注文の「かたち」を決めます。入数とは、1商品あたり必ず取ってもらう単位のことです。6点、12点、小さな商品なら24点。
入数は、金額としては4万円に届いているのに、カタログの全商品を1点ずつ集めただけ、という注文からあなたを守ります。その注文はピッキングに4時間かかり、棚では存在感がなく、結局売れません。入数6なら、店は1商品を小さく積んで置くことになります。小売の陳列は本来そうやって機能します。
梱包も読めるようになります。すべてが6点単位で動けば、外装も袋も梱包時間も、その場の工夫ではなくなります。小売800円以下の小物は入数を大きくして構いません。レジ横の衝動買い商品であり、バイヤーが最低額に届かせるために足す商品でもあるので、まとまった数で出てほしいものです。
6. アメリカのバイヤーの実際の期待
アメリカの個人店のバイヤーは、最低発注額にまったく慣れています。何百というブランドから仕入れ、そのすべてにMOQがあります。彼らが困るのは高い最低額ではなく、不明確な最低額、途中で変わる最低額、そしてMOQがあることを謝る作り手です。
ここは文化の話でもあります。日本の作り手の反射は「合わせること」です。断るのが失礼に感じるから、小さな初回注文にもうなずいてしまう。しかしアメリカの卸では、明確な最低額はプロフェッショナルの証です。最低額のない作り手は、新しくて、自信がなくて、納期も怪しい——あなたの仕事にふさわしくない印象を与えてしまいます。
「お試し」という形で最低額未満の初回注文を求められることはあります。受けても構いませんが、譲る場所は最低額以外にします。掛率を卸ではなく小売に近い水準にする、送料を相手負担にする、決まったスターターセットにする。単純に最低額を下げてはいけません。12,000円で始めた店は、永久に12,000円で再発注します。
7. お金を失う7つの間違い
1つ目。計算ではなく「失礼にならない金額」で決めること。礼儀は原価計算ではありません。
2つ目。自分の労働を忘れること。ピッキングと書類に自分への支払いを計上しなければ、卸は帳簿の上では常に黒字で、生活の実感としては常に疲弊します。
3つ目。価格帯が広いのに最低額を点数で示すこと。300円のシール50点と2,000円のノート50点は、まったく別の注文です。
4つ目。入数を設定しないこと。金額上は成立している注文が採算に合わない、最も多い原因です。
5つ目。送料と関税の負担者を書かないこと。1行で足ります。送料は実費請求、輸入関税・通関手数料は買い手負担、と。
6つ目。憧れの店のために最低額を崩すこと。条件はバイヤーのあいだで伝わります。守らない条件は条件ではありません。
7つ目。見直さないこと。材料費が変わったとき、送料が動いたとき、そして最低でも年に1回は計算し直してください。
8. 英語での伝え方
ラインシートのフッターに:「Opening order minimum ¥40,000. Reorder minimum ¥20,000. Case packs of 6. Prices are wholesale, EXW Japan.」
最低額未満を求められたときのメール:「Thank you for your interest in the line — I'd love to see it in your shop. Our opening order minimum is ¥40,000, which lets us pack and ship internationally at a sensible cost. If that's more than you'd like to commit to for a first season, I can suggest a starter assortment that reaches the minimum using our best-selling items.」
この文がしていることに注目してください。謝っていない。理由を一節で説明している。そしてすぐに次の道を示している。これが注文につながる語調です。
Wholesale Studio
MOQ計算ツールはWholesale Studioにあります
Wholesale Studioには、この記事で使った計算式そのままのMOQ計算ツールが入っています。希望小売価格、掛率、入数、梱包の手間、送料を入れると、損益分岐点・初回発注の最低額・再発注の最低額が、入数単位に切り上げられた状態で出ます。そのままラインシートに書ける数字です。あわせて、ラインシート、取引条件書、入数、バーコード、バイヤーへの営業、展示会、独占取扱までを扱う卸講座と、マルシェ・展示会のためのイベント計画ツールが付きます。日英2言語、買い切りです。
Wholesale Studioを見る →よくある質問
海外卸のMOQは、いくらが普通ですか?
海外の個人経営店なら、初回発注3〜5万円、再発注2万円前後、商品ごとの入数6点が標準です。ただし送料と梱包時間は商品重量で大きく変わるため、必ず自分の数字で計算して確認してください。
MOQは点数と金額、どちらで示すべきですか?
注文全体の最低額は金額で、商品ごとの入数は点数で示します。価格帯の異なる商品を扱う場合、点数だけの最低発注は成立しません。300円のシール50点と2,000円のノート50点では意味がまったく違うからです。
どうしても取り扱ってほしい店なら、MOQ未満でも受けていいですか?
受けても構いませんが、譲るのは最低額以外にしてください。掛率を小売寄りにする、送料を相手負担にする、決まったスターターセットにする。最低額そのものを下げると、その店は永久にその金額で再発注し、他のバイヤーにも伝わります。
なぜ海外のMOQは国内より高くする必要があるのですか?
1件あたりの固定コストが桁違いだからです。コマーシャルインボイス、税関告知、HSコード、輸出の証憑保存、輸出に耐える外装、そして小口ではほとんど安くならない国際送料。同じ注文でも、海外向けは3〜5倍の間接コストがかかります。
金額が十分なら、入数は設定しなくてもいいのでは?
いいえ。入数がないと、全商品を1点ずつという注文で最低額に届いてしまいます。ピッキングに時間がかかり、棚では存在感が出ず、売れず、再発注もありません。入数はあなたの梱包時間と、相手の売れ行きの両方を守ります。
アメリカ向け卸の関税は誰が払いますか?
通常は輸入者である買い手ですが、ラインシートと取引条件書に必ず明記してください。書いていない関税が配達時に請求されることは、最初の卸取引が壊れる最も多い原因のひとつです。
